リコーはフィルムの文化を次世代に引き継いでいきたいと考えている

DPReviewに、リコー(ペンタックス)のフィルムカメラ開発チームのインタビューが掲載されています。

Ricoh's big bet on a film renaissance

  • インタビューアー:フィルムカメラは爆発的な成長を遂げている。最近東京の中古カメラ店を巡った際に、店主たちは一貫してパンデミック前と比べて、フィルムカメラの売り上げが約3倍になっていると述べていた。さらに驚くべきことは、私が訪れた主要な中古カメラ店では40歳以上の客を一人も見かけなかったと思うことだ。中古のカメラでなく、保証とサポートが受けられる新品のカメラがあれば素晴らしいとは思わないだろうか? これがまさにリコーイメージングが考えていることだ。

  • ペンタックスのフィルムカメラプロジェクトは、YouTube動画で次の詳細が明らかになっている。

    - このカメラは今年の夏に出荷される予定
    - ハーフサイズでコンパクトなデザイン
    - 縦長のフォーマット
    - 広角単焦点レンズ(おそらく36mm相当)
    - ゾーンフォーカス
    - ほぼ自動露出だが、ユーザーが設定できる撮影モードも搭載

  • (ペンタックスブランドのビジョンは?将来のフィルムとデジタル製品との関係はどうなると思うか?)
    我々のビジョンは写真愛好家に製品を提供することだ。写真とは、デジタルとアナログの両方を意味する。将来は分からないが、最近はフィルムカメラの使用が増えているのは明らかで、デジタルとアナログの両方を利用できるようになると考えている。今のところデジタルとアナログの両方を提供できる可能性があるのは当社だけだ。

  • (ペンタックスがフィルムカメラで成功したら他社も参入すると思うか?)
    イエスだ。一部の競合他社がフィルムカメラ市場に参入すると予想している。我々が行っていることが市場全体を刺激することを願っている。フィルムカメラは熱心なファンに支えられており、カメラメーカーとして応援していきたいと思っているが、自社だけでは難しいので、他のメーカーと一緒にフィルムの文化を次世代に引き継いでいきたいと思っている。

  • (最終的にフィルムカメラの製造を決定したのはいつ? それが可能だと思った理由か?)
    フィルムカメラのプロトタイプができてそれで写真が撮影できたときだ。試作機で初めて写真を撮ることができたときはとても感動して涙が出てきた。

  • (フィルムカメラのレンズは手持ちの何らかのレンズを使ったのか?)
    今回のカメラのために新たに設計したものだ。他のカメラのレンズを参考にしたが、古いものをそのまま使うのではなく、再設計した。古いレンズを再度作るのに必要な設備や金型がないので、最初からやり直す必要があった。

  • (フィルムカメラのブランドが「RICOH」ではなく「PENTAX」になったのはなぜ?)
    これは単純に最初からこの製品をペンタックスブランドの製品として考えていたからで、ペンタックスのプロジェクトとして取り組みはじめ発表した。最初からこのカメラをハーフサイズのカメラとして考えていたわけでなく、リコーのオートハーフのことは頭になかった。

  • (手巻き式のフィルム送りと巻き戻しはコストがかかると聞いたが?)
    コストの数字は言えないが、手巻きの方がネジやギアなどの部品点数が電動式に比べてはるかに多いのは事実だ。このため組み立てが難しく、経験豊富な組立作業員であっても多くのトレーニングが必要で、部品代だけでなく、すべてにお金がかかる。しかし、フィルムカメラの楽しみの1つが巻き上げであると考え、手巻きを採用することにした。

  • (縦長フォーマットはいつ決定したのか?)
    市場に受け入れられるのか真剣に検討する必要があったので、詳しい人や潜在的なユーザーから話を聞くのに多くの時間を費やした。最初は高齢者がハーフサイズを好まないのではないかと心配したが、YouTube動画公開後、多くの高齢者が「このカメラは若者向け」というコンセプトを理解していると述べていた。スマートフォンの撮影では縦位置での撮影は日常だ。

  • (オートハーフの画角とEspio Miniのレンズからインスピレーションを得たそうだが?)
    オートハーフの自然な画角(換算36mm)は誰にとっても使いやすいと感じた。レンズ設計はオートハーフではなくEspio miniのものを参考にした。Espio miniのレンズは高画質で、研究開発担当者からも非常に高く評価されており、これをリファレンスとして使用することにした。最新のコーティングを採用することもでき、現代の傑作レンズになる可能性を秘めていると思う。

  • (Espio miniのレンズ構成は?)
    トリプレット(3群3枚)の非常にシンプルなレンズだが、美しくクリアで非常に良い結果が得られた。新しいフィルムカメラのレンズは新設計だが、Espio miniのレンズに非常に良く似ている。しかし、ハーフサイズ用にいくつかの調整を行っている。

  • (ゾーンフォーカスはMFのみ? それともAF時にもあてはまる?)
    このカメラではピント調整はゾーンフォーカスのみだ。ゾーンフォーカスを採用したのは、パンフォーカスから次のレベルへのステップアップに最適な機構だと考えたからだ。したがって、AFは搭載されておらず、ユーザーがゾーンを選択することになる。この方式はスナップに非常に適している。プロトタイプで撮影したが、自分で距離を決めて撮影するのは非常に楽しかった。

  • (シャッターがフィルム用に最適化されているということだが、デジカメのシャッターとの違いは?)
    フィルムカメラのシャッターは撮影時だけでなく、電源を切ってカメラを使用していない場合でも光漏れを防ぐ必要がある。シャッター自体ではなく周囲の機構も重要で、カメラ全体が光漏れを避けるように設計されている必要がある。これはデジカメよりも遥かにシビアな問題だ。

  • (「撮影モード」について言及されていたがどのような意味なのか?)
    基本的にはカメラが絞りやシャッターを自動的に制御するが、それだけでは楽しみがなくなるので、いくつかの撮影モードを選べるように検討している。

  • (完全なマニュアルモードは搭載されるのか?)
    詳細は待って欲しいが、カメラがハーフサイズのため被写界深度が非常に深く、絞りを調整してもあまり効果的ではないと言っておきたい。

  • (フィルムの直販を開始したことについて)
    フィルムを直販を試みている。フィルムメーカー等と連携し、供給と価格の両面での改善に努めたい。

  • (フィルムの後処理のコストを削減するための戦略はあるか?)
    具体的な計画はまだない。まずは関連する会社とのパートナーシップを構築する必要があり、まだ始まったばかりだが、いくつかの企業とのパートナーシップを構築しはじめている。世界でフィルム産業を成長させることができれば、間接的に後処理のコストを下げることができるだろう。我々は間接的には貢献できるが、直接のフィルムの開発には関与しない。

  • (タフカメラWGシリーズの需要はどうか?)
    安定している。防水・耐衝撃仕様のカメラの需要は続くと考えている。

 

ペンタックスのフィルムカメラプロジェクトは本当に力が入ってる様子で、第1弾のコンパクトなハーフサイズカメラは良い製品に仕上がりそうですね。中古フィルムカメラの売上は以前の3倍になっているということなので、ペンタックスの新しいフィルムカメラもこの波に乗って売れて欲しいものです。

手巻き&ゾーンフォーカスによる撮影は、デジカメやスマートフォンから写真をはじめた人には新鮮に感じられるかもしれませんね。巻き上げの感触にも期待したいところです。