シグマは高い光学性能を追求しているが個性的なレンズの要望があることも理解している

DPReviewに、シグマの山木和人社長のインタビューが掲載されています。

CP+ 2023: Sigma interview - 'I think people's demand for lenses is unlimited'

  • (写真業界の状態について)
    今年は北米やヨーロッパ市場の景気後退やインフレの影響で、厳しい状況になると思う。2023年は少し厳しいかもしれない。2022年の急進はコロナのパンデミック後に市場が少し成長しためだ。カメラ市場は縮小していると思うが、早く底を打ってフラットになって欲しい。

  • (Lマウントアライアンスによって予期せぬチャンスはあったか?)
    当初は、フルサイズミラーレス用の独自の新マウントを開発する予定だったが、最終的にライカ、パナソニックと協力することにした。これは顧客にとって大きなメリットがあるので、良い判断だったと思う。我々は正しい決断をした。

  • (Lマウントのレンズラインナップは揃ってきたが不足しているレンズはあるのか?)
    人々のレンズに対する要求は無限大だと思う。今後は、現在市場に存在しないような独自のレンズの需要を生み出していくつもりだ。

  • (大部分のメーカーがフルサイズを重視しているが、シグマにとってAPS-Cはどの程度重要なのか?)
    APS-Cにはまだ大きな利点がある。フルサイズで隅々まで周辺光量落ちの無い良好な性能のレンズを造るのは難しい。APS-Cなら、そこそこの大きさ重さで優れた性能のレンズを造ることができる。画質と大きさ重さのバランスを気にする人にとって、APS-Cは優れた選択肢だ。フルサイズはボディは非常にコンパクトにできるが、レンズをコンパクトにするのはまだ難しい。

  • (マウントの種類を増やすと、設計や製造にどのような影響があるのか?)
    レンズの設計に影響はない。センサー前のフィルターなどのシステム間の違いにより、微調整が必要な場合もあるため、システムごとにレンズを最適化する必要があるが、光学設計に影響を与えることはない。しかし、マウントを増やすと生産の効率に影響があり、コストが増加する。できるだけ多くのマウントに対応したいが、需要が限られているマウントに対応すると、製品全体の価格が上がってしまうので、残念だがマイナーなマウントは見送らざるを得ない。

  • (一眼レフへの関心が低くなった今、生産のマネージメントはしやすくなったのか?)
    一眼レフ用のレンズはミラーレスとは別物なので、開発には別のリソースが必要だ。今はミラーレス用のレンズの開発にのみ注力している。一眼レフ用レンズの生産はまだ続けており、両方の多くの種類のレンズを製造しなければならないので製造工程は大変だ。

  • (一眼レフ市場はいつまで続くと思うか?)
    100%の確信はないが、新型のデジタル一眼レフが登場しなければ、3~5年でミラーレスに置き換えられるかもしれないと思っている。しかし、一眼レフ用のレンズは需要がある限り生産を続ける。

  • (高品質で手頃な価格のレンズは、どのように実現しているのか?)
    会社の規模を非常に小さくし、無駄の無い組織構造を維持するようにしている。我々の哲学は「小さなオフィス、大きな工場」だ。つまり、財務、人事、マーケティング、営業といった管理部門の業務を最小限に抑え、技術開発と製造に投資している。2つ目の理由は、日本に非常に効率の良い工場があることで、複雑な部品やガラスを高精度・高効率で製造することができる。複雑なパーツを自社で加工することで、コストを下げることができる。

  • (レンズの技術的な完成度の追求と、他にはないキャラクターを持つレンズついてどのような哲学があるのか?)
    メーカーとして、可能な限り高い光学性能を実現することが我々の使命だ。しかし、顧客から(他にはないキャラクターを持つレンズの)要望があることは理解している。このような顧客の好みを調査したところ、いくらか球面収差のあるレンズが求められていることが分かった。45mm F2.8 DG DNは比較的球面収差が大きいレンズで、そのような表現を好む人もいる。このようなレンズを造ることもあるが、あくまでも最高の光学性能を実現することに重点を置いている。

  • (カメラの設計について、どのような方針なのか?)
    大手メーカーと同じようなカメラを造っても誰も買ってくれない。だから、我々は他にはないものを探している人達を応援したい。そのため、何か他にはないもの、他と異なるものの需要があるかどうか常に検証している。


  • (そのビジョンの中でfp / fp Lはどのように位置付けられているのか?)
    fpのコンセプトは顧客に受け入れられたと思う。fpはコンセプト的には良かったが、改善しなければならない点もある。fp(とfp L)はビデオカメラだと誤解されていた。実際にはビデオカメラではないが、多くの人がビデオカメラだと思い込んでおり、これはコミュニケーションにおける我々のミスだ。fpはストリートフォトに最適なカメラだ。fpはビデオカメラとしては、例えばLogに対応しておらず完璧なものではない。また、小型軽量で高品質なスチル用のカメラを求める写真家との接点をもっと増やしていきたいと考えている。

  • (フルサイズFoveonの進捗は?)
    センサー技術の研究は続けているが、まだプロトタイプは完成していない。また、新しいセンサーウェハーの製造プロセスも開発している。センサーを試作するたびに技術的な課題が見つかるのでそれを解決しているが、まだいくつか課題が残っている。近い将来、それらの問題を解決し、最終的なセンサーを造ることができるようになると思っている。

  • (フルサイズFoveonのカメラをまだ造りたいと思っているのか?)
    はい。顧客も楽しみにしてくれている。多くの課題を解決しなければらないが、挑戦を続けたいと思う。以前にFoveonで撮影した写真を見返すと、ベイヤーセンサーとの違いがよく分かる。現在のFoveonセンサーで同じような表現を実現したい。

  • (シグマはパンデミックの影響をどう乗り切ったのか?)
    実は我々はパンデミックの影響をあまり受けていない。他のメーカーはグローバルサプライチェーンを構築しているため操業が困難だったが、シグマは日本に一つ工場があるだけだ。

  • (ここ数年で、写真の世界で最も印象に残っている製品やテクノロジーは?)
    最も感銘を受けた技術はコンピュテーショナルフォトグラフィーだ。スマートフォンの画質は主にコンピューテーショナルフォトグラフィーのおかげで、ここ数年飛躍的に向上しており、これには驚いた。これは映像技術を変えるかもしれない。カメラメーカーやレンズメーカーはそこから何かを学ぶ必要があるだろう。

  • (この四半世紀を振り返って写真界で最も大きな変化は何か?)
    インターネットやソーシャルメディア、そしてもちろんデジタルイメージングだ。これらのテクノロジーは写真の楽しみ方や画像の共有の仕方を大きく変えた。これらの技術により、アマチュアでも高画質な写真を撮ることができ、ネット上に作品を公開する場があるので、すべての写真家がアーティストになるチャンスが生まれた。

 

シグマは基本的に高い光学性能を追求していくようですが、意図的に収差を残したレンズや、他にはないスペックのレンズなどの個性的なレンズの登場も期待できそうですね。

fp / fp L に関しては登場時のシステムの解説で、リグを組んだりジンバルに載せたりしていたので、確かに動画メインのカメラという印象を受けましたが、ストリートフォトなどのスチル用を意図したものだったとは少々意外でした。今後は小型で高画質なスチル用のカメラに力を入れていくことが示唆されているので、期待したいところです。

フルサイズFoveonに関しては、これまでのインタビューと同様のコメントで、着実に進んでいるようですが、製品化までにはまだ少し時間がかかりそうですね。